投稿日 : 2026年6月29日 / 最終更新 : 2026年6月29日
文責 : 釜野信彦
ICの選定や熱設計を行う際、データシートに記載されている「**許容損失(Pd)**」「**熱抵抗($\theta_{ja}$・$\psi_{jc}$)**」「**ジャンクション温度($T_j$)**」は重要なパラメータです。ここではそれぞれの意味と基本的な使い方を解説します。 ## **1. 許容損失とは** 許容損失(Maximum Power Dissipation:Pd)とは、周囲温度($T_a$)からジャンクション温度の絶対最大定格($T_{jmax}$)に達するまでにICが消費できる最大の電力です。 許容損失はパッケージの放熱能力と周囲温度によって決まり、データシートには特定の条件(基板実装条件・周囲温度)での値が記載されています。
## **2. 熱抵抗とは** 熱抵抗とは、ICの発熱に対してどれだけ温度が上昇しやすいかを示す指標です。電気回路の抵抗と同様に、熱の流れにくさを表します。 代表的な熱抵抗として以下の2つがあります。 * **$\theta_{ja}$(ジャンクション〜周囲間熱抵抗)** ICのジャンクションから周囲空気までの熱抵抗です。 基板実装した状態での放熱性を示します。一般的な熱設計で最もよく使われます。 * **$\psi_{jc}$(ジャンクション〜ケース間熱抵抗)** ICのジャンクションからパッケージ表面(ケース・トップ)までの熱抵抗です。$\psi_{jt}$(ジャンクション〜トップ間)と表記されることもあります。パッケージ表面温度からジャンクション温度を推定する際に使用します。 単位は $[\text{°C/W}]$ で、値が小さいほど放熱性が高いことを示します。
## **3. 許容損失と熱抵抗の関係** 許容損失とジャンクション温度・熱抵抗の関係は以下の式で表されます。 $$P_d = \frac{T_{jmax} - T_a}{\theta_{ja}}$$ この式から、$\theta_{ja}$ が大きいほど(放熱性が低いほど)許容できる $P_d$ が小さくなることがわかります。また周囲温度 $T_a$ が高くなるほど許容損失も低下します。これがデータシートの許容損失ディレーティンググラフに表れています。 ## **4. ジャンクション温度の計算** ICの内部温度であるジャンクション温度($T_j$)は以下の式で求められます。 **$\theta_{ja}$ を使用する場合(基板実装・周囲温度から推定)** $$T_j = T_a + P_d \times \theta_{ja}$$ **$\psi_{jc}$ を使用する場合(パッケージ表面温度から推定)** $$T_j = T_c + P_d \times \psi_{jc}$$ * $T_j$:ジャンクション温度 [°C] * $T_a$:周囲温度 [°C] * $T_c$:パッケージ表面温度 [°C] * $P_d$:ICの消費電力 [W] $T_j$ がデータシートに記載されている最大ジャンクション温度($T_{jmax}$)を超えないように設計する必要があります。 ## **5. 設計上の注意点** * **$\theta_{ja}$・$\psi_{jc}$ は実装・基板条件に大きく依存する** データシートに記載の $\theta_{ja}$・$\psi_{jc}$ は特定の基板・実装条件での値です。 実際の基板での $\theta_{ja}$ は、銅箔面積・基板材質・放熱パターンによって大きく変動します。 * **$\psi_{jc}$ の測定方法に注意する** パッケージ表面温度の測定には、測定方法によって測定値が大きくずれることがあります。正確な温度を測定するためには、測定部品に応じて最適な測定方法を選択する必要があります。 ## **まとめ** | 項目 | 内容 | |---|---| | **許容損失(Pd)** | $T_a$ から $T_{jmax}$ に達するまでにICが消費できる最大電力 | | **$\theta_{ja}$** | ジャンクション〜周囲間の熱抵抗。実装・基板条件に大きく依存する | | **$\psi_{jc}$($\psi_{jt}$)** | ジャンクション〜ケース(トップ)間の熱抵抗 | | **ジャンクション温度** | $T_j = T_a + P_d \times \theta_{ja}$(または $T_c + P_d \times \psi_{jc}$)で算出 |
文責 : 釜野信彦

トレックス・セミコンダクター 2005年入社。
DC/DC等の電源IC開発に6年携わった後、オフラインLEDドライバの技術サポートを3年従事。その後、トレックスの電源IC顧客向け技術サポートを担当。
開発で培った知見と、長年の顧客サポートで蓄積した電源関連やトラブル事例対策の豊富なノウハウを基に、トレックス製品の技術サポートや製品提案に従事しています。
顧客サポートの一環として、設計支援ツールの開発も手掛け、お客様の設計プロセスを強力に後押しします。