投稿日 : 2026年9月2日 / 最終更新 : 2026年9月9日
文責 : 釜野信彦
電子機器を動作させると、「ピー」「キーン」「ジー」といった異音が発生することがあります。これを**音鳴き**(または**音鳴り**)と呼びます。電子部品が機械的に振動し、その振動が空気を伝わって人の耳に聞こえる現象です。 ## **1. 可聴帯域とは** 人間が聴くことができる音の周波数範囲を**可聴帯域**(可聴周波数帯域)といい、個人差はありますが一般的に **20Hz ~ 20kHz** とされています。この帯域で部品が振動すると、音として聞こえる場合があります。 ## **2. 音鳴きのメカニズム** 電子機器の音鳴きは、主に基板上の2つの受動部品が振動源となって引き起こされます。 ### **コイル(インダクタ)/ トランスの音鳴き** スイッチング電源ではコイル/トランスに電流が流れると、巻き線やコアに**電磁力**が発生し、機械的な変形・振動が生じます。 この振動がコア材・ボビン・基板に伝わって音として放射されます。 コイルの音鳴きに関係する主な要因は以下のとおりです。 * **コア材の磁歪**:磁界によってコア材が微小に伸縮する現象(磁歪)により振動が発生します * **巻き線の電磁力**:電流が流れる導体間には電磁力が働き、巻き線が振動します * **コアと巻き線の共振**:コア・巻き線・封止材の機械的な固有振動数に一致すると振動が大きくなります ### **MLCC(積層セラミックコンデンサ)の音鳴き** MLCCに使用されるチタン酸バリウム系の誘電体材料は、**圧電効果**(電圧をかけると機械的に変形する性質)をもっています。 MLCCの印加電圧が変動すると、電圧変化に応じてMLCCが微小に伸縮し、振動が発生します。この振動が基板・筐体に伝わると音として聞こえます。 MLCCの音鳴きに関係する主な要因は以下のとおりです。 * **誘電体の圧電効果**:チタン酸バリウム系誘電体(X5R・X7Rなど)は圧電性が高く、音鳴きが発生しやすい * **基板との共振**:MLCCの振動が基板を励振し、基板が振動板となって音を増幅します ## **3. 可聴帯域に入る主な原因** 電圧や電流の変化が可聴帯域(20Hz ~ 20kHz)に入る場合に音鳴きが発生します。以下が主な原因です。 ### **出力発振・不安定動作** 位相マージン不足などによって電源回路が発振している場合、出力電圧が可聴帯域の周波数で発振することがあります。 この場合は音鳴きとともに出力電圧の異常な変動も観測されるため、波形を確認することで判断できます。
### **負荷変動・入力変動** 負荷が周期的に変動する場合(マイコンの間欠動作・モータの回転数変動、PWM調光など)、その変動周波数が可聴帯域に入ると音鳴きが発生します。これは、**出力電圧や入力電圧の変動周波数**がそのまま可聴帯域と同調してしまうためです。
### **DC/DCコンバータのPFM動作** DC/DCコンバータは軽負荷時に高効率を実現するため、**PFM(パルス周波数変調)動作**に切り替わることがあります。 PFM動作では負荷電流に応じてスイッチング周波数が変化し、**軽負荷になるほど周波数が低下**します。このスイッチング周波数が可聴帯域まで低下するような負荷電流領域では、コイルやMLCCが可聴帯域で振動して音鳴きが発生します。
## **4. 音鳴き部品の特定方法** 音鳴きへの対策を行う前に、どの部品が鳴いているかを確実に特定することが重要です。 ### **ステップ1:可聴帯域の電圧・電流変化を確認する** まずオシロスコープで各ノードの電圧波形を確認し、**可聴帯域(20Hz ~ 20kHz)に変動が存在するノード**を探します。 周期的な変動が見つかったノードに接続されている部品(コイル・MLCC)が音鳴きの第一候補になります。 オシロプローブで直接波形を確認するだけでなく、FFT機能を使うと周波数成分を視覚的に把握しやすくなります。 * 出力電圧ノード * 入力電圧ノード * スイッチングノード(Lx端子) 各電源の上記ノードを確認し、可聴帯域の変動がどこから来ているかを絞り込みます。 基板条件によっては、数十mVから数百mVの電圧変動で音鳴きする場合もあるので、音鳴きしている候補を見逃さないようにプローブしましょう。 ### **ステップ2:指・綿棒で部品を押さえる(大型部品のみ有効)** トランスや大型の巻き線コイルなどの場合、絶縁された綿棒などで軽く押さえることで、機械的振動が抑制されて音が変化し、音源を特定できることがあります。 ただし、小型のMLCCやチップインダクタでは押さえても効果が出にくい上、力を入れすぎるとはんだクラックや基板パターンの破損を招くリスクがあるため、基本的にはオシロスコープでの絞り込みと部品交換による確認を推奨します。 *(※実施する場合は、感電やショートによる部品破壊を防ぐため、必ず絶縁された工具を使用し、高電圧部には触れないよう注意してください)* ### **ステップ3:部品の交換・変更で絞り込む** 波形から候補が絞り込めたら、該当する部品を別の種類や対策品の品番に仮交換し、音鳴きが改善するかどうかを確認します。 たとえば、怪しいMLCCを一時的に音鳴き対策品やリード品へ交換してみる、あるいはコイルをモールドタイプに変更してみる等のアプローチが有効です。 部品を変える際は、一度にすべてを変えず、1点ずつ変更して影響を確認していくのが原因特定の基本です。 ## **5. 対策方法** ### **制御・回路側の対策** 音鳴きの根本原因は、**電圧・電流が可聴帯域で変動していること**そのものです。部品を物理的に変えるだけでなく、電気的な変動自体を抑制することも非常に有効です。 * **出力の発振を抑える** 出力が発振していた場合、周辺部品(位相補償定数など)の調整によって出力電圧を安定させ、可聴帯域での不要な揺れを排除します。 * **出力容量を増やす・過渡応答特性を改善する** 出力電圧の変動を小さくすることで、MLCCへの交流電圧成分が減少し、音鳴きが抑制されます。 また過渡応答を改善するために、PFM制御からPWM制御(強制PWM等)に変更するなども有効です。具体的な方法はメーカーに確認しましょう。 * **スイッチング周波数を可聴域外に設定する** 通常動作時のスイッチング周波数を20kHz以上に設定します。PFM動作がある場合は、軽負荷時も含めてスイッチング周波数が可聴域まで落ち込まないか、仕様の確認が必要です。 ### **MLCCの対策** MLCCの圧電音鳴きには以下の対策が有効です。 * **リード付きMLCC / メタルフレーム付きMLCC に変更する** リードやメタルフレームがクッションとなって振動を吸収するため、基板への振動伝達が大幅に低減されます。
* **音鳴き対策品(低圧電タイプ)に変更する** 圧電性の低い誘電体材料を使用した専用の製品です。同容量・耐圧でラインナップがあるか確認を推奨します。 * **MLCC以外のコンデンサに変更する** 機能性高分子コンデンサ(ポリマーコンデンサ)など、そもそも圧電性のないコンデンサに変更します。ただし、回路条件や仕様によってはMLCC以外のコンデンサが対応していない場合もあるため注意が必要です。 ### **コイル/トランスの対策** コイル/トランスの音鳴きに対して、最も効果的な対策は**モールドタイプ(樹脂封止型)のコイルへの変更**です。 巻き線とコアが樹脂でしっかりと固定されているため、機械的な振動そのものが強力に抑制されます。 * **モールドタイプ(樹脂封止型)コイルに変更する** 巻き線・コアを樹脂で固定・一体化することで振動を抑制します。 * **トランスに接着剤・封止材を塗布する** トランスの巻き線にワニス等の樹脂を浸透させて焼き固めることで、巻き線同士の微小な隙間を埋め、振動を抑制することが可能です。 ### **実装位置・基板設計の対策** MLCCから基板へ伝わった振動は、基板そのものがスピーカーの振動板のようになることで音鳴りを増幅させます。 この現象は基板自体の共振のしやすさにも依存するため、MLCCの基板内での配置場所や配置する向きを変更することでも対策が可能です。 ## **6. まとめ** 1. 音鳴きは、コイルの磁歪・電磁力やMLCCの圧電効果による「物理的なミクロの振動」が原因 2. 電圧・電流の変動周波数が20Hz ~ 20kHzの可聴帯域に入ると音波として聞こえる 3. PFM動作・スイッチング周波数設定・負荷変動・出力発振が可聴域に突入する主な原因 4. 特定はオシロスコープで可聴帯域の変動ノードを探し、該当部品を交換・変更して消去法で絞り込む 5. 対策はまず回路側で電圧変動を抑制し、それでも残る場合はコイルのモールド化やMLCCの対策品へ変更する
文責 : 釜野信彦

トレックス・セミコンダクター 2005年入社。
DC/DC等の電源IC開発に6年携わった後、オフラインLEDドライバの技術サポートを3年従事。その後、トレックスの電源IC顧客向け技術サポートを担当。
開発で培った知見と、長年の顧客サポートで蓄積した電源関連やトラブル事例対策の豊富なノウハウを基に、トレックス製品の技術サポートや製品提案に従事しています。
顧客サポートの一環として、設計支援ツールの開発も手掛け、お客様の設計プロセスを強力に後押しします。