投稿日 : 2026年9月2日 / 最終更新 : 2026年9月9日
文責 : 釜野信彦
電源ICの起動時に出力電圧が設定電圧を超えてオーバーシュートする現象が発生することがあります。
オーバーシュートの原因はいくつかありますが、本記事では**入力電圧(VIN)の立ち上がりが遅い場合**のメカニズムと対策について解説します。
## 1. オーバーシュートが発生するメカニズム
入力電圧(VIN)の立ち上がりが遅い状況で、EN端子をVIN端子に接続(直結)している場合、以下のメカニズムでオーバーシュートが発生します。
### フェーズ1:起動開始(VIN不足の状態)
1. VINが0Vからゆっくり上昇し、ICの動作開始電圧に到達。
2. ICがソフトスタートを開始するが、VINが低いため目標電圧(VOUT)まで到達できない。
3. フィードバック制御が「出力不足」を検出し、出力を上げようとするDC/DCならDutyを最大へ、LDOならドライバのゲート電圧を上昇させる)。
### フェーズ2:VINの上昇と制御の飽和
4. VINが上昇し、出力電圧が設定値付近まで到達し始める。
5. しかし、IC内部の制御回路は「まだ出力が足りない」と判断した状態(Duty最大等)を維持している。
### フェーズ3:オーバーシュート発生
6. VINが十分に供給された瞬間、最大Dutyのままエネルギーが一気に供給される。
7. その結果、設定電圧を超えて出力が跳ね上がる(オーバーシュートが発生)。
※なお、フィードバックループの応答速度はICによって異なるため、過渡応答特性の良い製品ほどオーバーシュートが出にくい傾向があります。
## 2. 対策
VINが十分に立ち上がってから電源ICを起動させることが基本的な対策です。
システム側でCE/EN端子を制御できない場合は、以下の手法が有効です。
* **RCディレイ回路でCE/EN端子の起動を遅らせる**
CE/EN端子にRCディレイ回路を挿入し、VINが十分に立ち上がった後に電源ICを起動させます。回路が簡単ですが、VINの立ち上がり時間が変動する場合は遅延時間の調整が必要です。
* **ソフトスタート時間を長くする**
外付けのソフトスタート設定機能がある場合、VINの立ち上がり時間より十分に長い時間設定にすることで、VINが低い期間にソフトスタート期間を完了させないようにします。
* **電圧検出器で起動タイミングを制御する**
電圧検出IC(ボルテージディテクタ)でVINを監視し、VINがある電圧に達した後にCE/EN端子をアサートします。VINの立ち上がり時間が変動する場合でも確実に制御可能です。
* **出力容量(CL)を大きくする**
CLを大きくすることで、オーバーシュート時に電荷を吸収し電圧上昇を抑制できます。
ただし、CLが大きすぎると起動時間が長くなるだけでなく、位相余裕が悪化して発振等の不安定動作を招く恐れがあります。。
## まとめ
1. EN端子をVINに接続している場合、VINの立ち上がりが遅いとオーバーシュートが発生しやすい
2. VINが低い間に制御量が飽和し、VINが十分に上昇した瞬間に過剰なエネルギーが供給される
3. 基本的な対策は「VINが十分に立ち上がってからICを起動させる」こと
4. RCディレイ回路、電圧検出器、ソフトスタート調整、CL増量が有効な対策手法となる


文責 : 釜野信彦
トレックス・セミコンダクター 2005年入社。
DC/DC等の電源IC開発に6年携わった後、オフラインLEDドライバの技術サポートを3年従事。その後、トレックスの電源IC顧客向け技術サポートを担当。
開発で培った知見と、長年の顧客サポートで蓄積した電源関連やトラブル事例対策の豊富なノウハウを基に、トレックス製品の技術サポートや製品提案に従事しています。
顧客サポートの一環として、設計支援ツールの開発も手掛け、お客様の設計プロセスを強力に後押しします。