投稿日 : 2026年9月8日 / 最終更新 : 2026年9月9日
文責 : 釜野信彦
DC/DCコンバータの選定では、入出力電圧や出力電流だけ見て選定する設計者も多いのではないでしょうか。
実際の回路では、負荷電流が急激に変化したとき(過渡時)に、出力電圧が一時的に変動する **「出力過渡変動(ロードトランジェント)」** が発生します。
この過渡変動による一瞬の電圧変動が大きいと、後段にあるMCUやリセットICが「電圧低下」と誤認識してシステムがリセットしたり、後段デバイスに動作電圧外の電圧を印加する原因になりかねません。
この記事では、DC/DCコンバータの出力過渡変動時のIC内部動作と、抑制するための具体的な対策方法を解説します。
## DC/DCコンバータの内部動作と過渡変動のメカニズム
DC/DCコンバータは制御方式によって、過渡変動時のIC内部動作が異なります。
### PWM制御の場合(エラーアンプ有り)
エラーアンプでFB電圧と基準電圧を比較するPWM制御では、エラーアンプの出力を変動させることで、Duty比を変化させ出力電圧を一定に保ちます。
過渡応答時は、下記のような動作がIC内部で起きています。
1. 出力電流1mAで安定。**Duty=5%** を維持。
2. 出力電流が1mAから1000mAに負荷変動
3. 出力電圧が低下し、設定値に戻るまでエラーアンプがDutyを大きくする
4. **Duty=30%** で出力電圧安定。
PWM制御における負荷過渡変動は、新しい動作点(Duty)にエラーアンプがいかに早く収束できるかに依存します。エラーアンプの応答速度が遅いほど、またDutyの変動幅が大きいほど、過渡変動は大きくなります。
ただし、エラーアンプの応答速度はある程度限界があり、電圧制御方式・電流制御方式といった制御方式によっておおよその上限が決まります。
また、強制PWM(F-PWM)制御では負荷によらず連続モードを維持するため、軽負荷と重負荷でDutyがほぼ変わらず動作点の変動幅が小さくなります。そのため、負荷過渡変動が小さくなる傾向があります。
### PFM制御・COT制御の場合
PFM制御やCOT(Constant On-Time)制御では、FB電圧がしきい値を下回ったことをコンパレータが検知し、スイッチングパルスを追加することで電圧を維持させます。
PWM制御のようにエラーアンプが存在しないため、エラーアンプの応答速度が無い分 高速で過渡応答することが可能です。
## 1. 同一IC・シリーズでの対策
### 出力容量値の増加
出力容量を増やすことで、負荷過渡変動時の電圧変動を抑制します。出力容量値が大きいほど過渡変動は小さくなります。
ただしDC/DCコンバータでは推奨CLの範囲が設けられている場合があります。範囲を超えると位相余裕が減少し発振リスクが生じるため、データシートの推奨容量範囲を確認した上で増やしてください。
また出力容量を増やすとCFB(フィードフォワードコンデンサ)の最適値が変わる製品があります。出力容量の変更によりCFB(フィードフォワードコンデンサ)も調整することで、応答性を最適にすることが可能です。
### インダクタ値を小さくする
インダクタ値が小さいほどコイル電流の傾きが急峻になることで、負荷電流への追随性が向上し 負荷過渡応答の向上が可能です。
ただし、推奨外のインダクタを使用すると、位相余裕が減少し発振等の問題が発生する場合があります。データシートの推奨範囲内で変更するようにして下さい。
### CFB(フィードフォワードコンデンサ)の追加・調整
**FB外付け品に有効**
FB抵抗外付け品では、FB抵抗(RFB1)と並列にCFBを接続することで、過渡応答を改善できます。CFBを追加すると、出力電圧の変動が分圧抵抗を介さずFBピンへ高周波的にダイレクトに伝わるため、過渡変動が小さくなります。
多くの製品でCFBを接続する構成が推奨されており、その最適値を調整することで過渡応答を改善できます。
### MODE端子でPWM固定モードに切り替える
**MODE端子付き品のみ対象**
PFM/PWM制御とPWM制御を外部信号で切り替えできるMODE端子を持つ製品では、PWM固定モードに切り替えることで負荷過渡変動を抑制することができます。
ただし、PWM制御では軽負荷時の消費電流が増加するため、軽負荷時の低消費かつ応答性を両立させたい場合は、動作モードに応じてMODE端子を切り替えて制御することが必要になります。
### ダミー負荷でDutyを上げる
**PWM:有効 / F-PWM, PFM:効果小**
PWM制御では、無負荷・軽負荷状態でDutyが低くなり、動作点の変動幅が大きくなります。特に非連続モードでは、出力電流の変動によりDuty(動作点)が大きく変わります。
ダミー抵抗等で常時ある程度の電流を流してDutyを上げた状態を維持することで、負荷過渡変動時のDuty変動幅を小さくし負荷過渡変動を改善できます。
なお、低消費電流が必要なアプリケーションでは、システム要件的にこの方法を適用することが難しい場合があります。
### スイッチング周波数を高いタイプを選択する
PWM制御では、スイッチング周波数が高いほど1スイッチングサイクルあたりの間隔が短くなり、エラーアンプがDutyを修正できる頻度が増えるため、過渡応答が改善します。
また同一シリーズでスイッチング周波数を高くすると、コイルのインダクタンス値が低くなる傾向にあります。インダクタンス値が低くなると、コイル電流の傾きが急峻になることで、負荷電流への追随性が向上し 負荷過渡応答の向上が可能です。
## 2. 負荷側での対策
### 負荷の電流変動量・スルーレートを抑える
DC/DCコンバータの過渡変動は負荷電流の変化速度(スルーレート)と変化量に依存します。負荷側の設計で電流変化を緩やかにすることも有効な対策です。
* **スルーレートを緩やかにする**
MCUの動作クロックを段階的に立ち上げる、パワースイッチFETのゲート抵抗を大きくして立ち上がりを鈍らせるなどの対策が有効です
* **周辺デバイスの起動・動作タイミングをずらす**
複数のデバイスを同時に起動・動作させると出力電流が大きくなるため、タイミングをずらすことで出力電流の変動幅を小さくします
* **過渡変動の収束前に次の変動が重ならないようにする**
DC/DCが負荷過渡変動から回復する途中、つまりエラーアンプがDutyを動作点に戻し切る前に次の負荷変動が発生すると、Dutyの変動幅がさらに大きくなり、通常の負荷変動時よりも出力電圧の変動が大きくなる場合があります。
複数の負荷が連続して動作するシステムでは、前の過渡変動が十分に収束してから次の負荷を動作させるよう、動作タイミングを調整することが有効です。
## 3. IC自体の変更
### 高速応答のDC/DCコンバータに変更する
DC/DCコンバータの負荷過渡応答特性は製品によって大きく異なります。高速応答が必要な場合は、負荷過渡応答が良好な製品への変更も検討してください。
最近では過渡応答特性が良好なCOT制御を採用した製品を選定するのもお勧めです。
## まとめ
- DC/DCの過渡変動はPWM制御ではエラーアンプがDutyの動作点を調整する時間の遅れ、PFM・COT制御ではコンパレータの反応時間に起因する
- 出力容量を増やすことで変動を吸収するのが基本対策だが、推奨範囲を超えると発振リスクがある
- インダクタ値を小さくすることで電流応答を速くできるが、推奨範囲を超えると発振リスクがある
- スイッチング周波数を高くすることでPWM制御の応答性を改善できる
- FB外付け品ではCFBの追加・調整で過渡応答を改善できる
- MODE端子付き品はPWM固定モードへの切り替えが有効
- 負荷の動作タイミングをずらし、過渡変動が収束する前に次の変動が重なるのを避ける
- 根本的な改善には高速応答品・COT制御品への変更を検討する



文責 : 釜野信彦
トレックス・セミコンダクター 2005年入社。
DC/DC等の電源IC開発に6年携わった後、オフラインLEDドライバの技術サポートを3年従事。その後、トレックスの電源IC顧客向け技術サポートを担当。
開発で培った知見と、長年の顧客サポートで蓄積した電源関連やトラブル事例対策の豊富なノウハウを基に、トレックス製品の技術サポートや製品提案に従事しています。
顧客サポートの一環として、設計支援ツールの開発も手掛け、お客様の設計プロセスを強力に後押しします。